1-3 〜黒いコロネ〜


〜黒いコロネ〜
ベルファルストから離艦した3機のファイターはセンサーブイから送られた
異常信号をキャッチして現場に急行した。
誰も経験した事のないワームホールチェイスの末、彼等が勝ち取ったものは・・・


 惑星ヌイベルの周回軌道上の1番艦ベルファルストから、周辺調査のために離艦した3機のファイターがミッションを終了して帰路についた時にその異常信号はキャッチされた。ベルファルストの周辺状況をより綿密に監視する為に今さっき撒き散らしたばかりのセンサーブイからその信号は送られて来た。母艦との通信の末、帰還を中止した3機は急遽確認に急ぐ事になった。
 「単なるブイの故障ならいいが・・・・」先導機のソルジャー、ビンストテルスは不安を覚えた。
 「この地区には我々以外仲間の陣営はまったくいない・・・・」
戦いに参加する事が始めてだったのは彼だけではない。この思いは他の2機のソルジャーも同じ事だろう。


 しばらくの飛行の後、程無く目標空域に到着した。ビンストテルスの予想に反してセンサーから発進された信号は、紛れもなく早速網にかかった獲物だった。最低限の兵装しか搭載していないこのミッションカーゴは接近戦には向いていない。しいて言えばほとんどのセンサーを放出し終わった空虚重量に近い機体に対して、持つ推力を全開にすれば多分互角以上のスピードが出せる事ぐらいが彼の今のたよりだった。
 「ベルファルスト接触を試みる。」
 「了解。」
短い通信が終わると最終誘導路に放出するはずだった残りのセンサーブイをいきおい良く射出口から投げ出し、機体から漏れる全ての情報フィールドを最大限遮蔽し、3機は分散待機して接触を待った。ほんのひと時の後、真正面の漆黒の空間にその黒い塊はワープアウトして来た。
 「来たか」
ビンストテルスは不安をかき消すかの様にありったけのビームを正面に位置した黒い塊に向けて撃ち込んだ。すんでのところで身をかわした黒い影は、攻撃を仕掛けてくるどころかまったくこちらを無視するかの様に前方正面に急加速を始め、先端から発するバリバリと輝くまぶしいエネルギー波の先にほの暗いホールを開き別の空域への専用通路を開通しだした。
 「逃げられる!」
とっさに巨体にフルブースを食らわせたビンストテルスは黒い弾丸が急加速して放つ長い光の尾が真っ暗なホールに消え入る瞬間、やっとの事で敵のワープルートを計算し終わったコンピューターからの目標ルートを承認し、機体とともに闇の中に吹っ飛んだ。
 「間に合ったのは俺だけか。」
不思議な事に相手からの攻撃はまったくない。どこまでも続くかの様な細長い時空回廊の中はいくら自動追尾中とは言っても気が抜けない。敵の機体はさほど大きくなく、ところどころメタリックな薄紫色に輝く漆黒のボデイーの威圧感に反して、そのはまき型に刻まれた2重のスパイラルのコロネ形状はどことなくひょうきんな印象を与える。本当に急いでいるのか、まったく相手にされていないのかと思った矢先、突然前方のコロネが制動をかけて蛇行飛行に入り、次の回廊にジャンプした。
 「無理な事をしやがる。」
短い独り言の中で何とか次の回廊の先読みは当たって、やっとの事で後ろについた。
 「こんな距離で速射しても自分が返り血を浴びるだけか。応援がないと手も足も出せやしない。」
頭の中で考えたと同時に先回りした2機からの伝令が響いた。
 「こちらもトラッキングした。前方で待ち伏せをする。誘導してくれビンストテルス。」
 「ベスビウス協力を感謝する。」
心強い応援を得て不安は消え去った。
 「こちらから追い立てる。」
2人の頭の中で響くカウントダウンの中、ビンストテルスはとてつもないスピードで進むコロネのはるか前方に照準を合わせた。バリィという爆音と共に機体から速射した閃光がコロネの脇をすりぬけ、これから通過するはずの回廊の側壁を打ち砕いた。この時空トンネルはコロネの機体の先端から発する誘導ビームが無理やり空間を切り裂いて作り出している通路だったが、そこに開かれた横穴のお陰で黒い塊はもんどり打ってこのシャフトから放り出された。
 「こんな荒業今迄誰もやった事がないだろう。」と思う間もなく
今度は自分自身もすばやくエネルギー波を発生させ専用通路を確保した。
 「来るぞ。」
ベスビウスからの通信が彼の待ち受ける空域にコロネを誘導する事が成功した事を伝えた。コロネが次にワープアウトした瞬間、出口に網の目の様に張り巡らされたレーザーネットに黒い塊は猛烈な勢いで突っ込んで完全に沈黙した。一瞬遅れてビンストテルスがワープアウトした時にはすでに大捕り物は終了していた。


 「フー」と深いため息の後、センサー敷設の単純作業のお土産としては立派な獲物を仕留めた喜びが緊張の開放の中でこみ上げて来た。沢山の応援に駆けつけたファイターの護衛を受けて黒いコロネはベルファルストに向かった。
 「こちらビンストテルス、初めての来客をお連れする。もてなしの準備をしてくれ。」